はじめての権限移譲

初めての権限移譲:なぜ「自分でやった方が早い」と感じるのか?その克服法と実践ステップ

Tags: 権限移譲, 初心者リーダー, マネジメント, タスク管理, チーム育成, 信頼関係

はじめに:多くのリーダーが感じる「自分でやった方が早い」という感覚

チームを率いる立場になったとき、特に技術的なバックグラウンドを持つリーダーは、「このタスクは自分でやった方が正確で速い」と感じることが少なくありません。これは、自身のスキルに自信があるからこそ抱きやすい感覚です。しかし、この感覚が権限移譲を躊躇させる要因となり、結果としてリーダー自身の負担が増え、チーム全体の成長を妨げることにも繋がりかねません。

この記事では、なぜ「自分でやった方が早い」と感じてしまうのか、その背景にある心理を掘り下げます。そして、その感覚を乗り越え、権限移譲を成功させるための考え方と具体的な実践ステップについて解説します。初めての権限移譲に不安を感じている皆様にとって、この記事がチームの力を最大限に引き出すための一助となれば幸いです。

なぜ「自分でやった方が早い」と感じるのか?

「自分でやった方が早い」と感じる背景には、いくつかの要因が考えられます。

1. 技術スキルへの自信と完璧主義

自身の技術スキルに自信があるほど、他者が同じ品質・速度でタスクを遂行できるか不安に感じやすくなります。また、完璧な成果を求めるあまり、多少時間がかかっても自分でコントロールしたいという気持ちが強くなる傾向があります。

2. メンバーのスキルや経験への不安

チームメンバーのスキルや経験が不足していると感じる場合、任せた結果、期待通りの成果が得られなかったり、かえって手戻りが発生したりすることを懸念します。このため、「教える時間や修正する時間を考えたら、自分でやった方が結局早い」という結論になりがちです。

3. 短期的な効率の追求

目の前のタスクを最も早く完了させることだけを考えると、慣れている自分がやるのが一番効率的だと判断してしまいます。しかし、これはあくまで短期的な視点であり、チーム全体の成長や将来的な効率化という長期的な視点が欠けています。

4. 任せるタスクの選定や指示の難しさ

どのタスクを誰に任せれば良いのか分からない、あるいは任せる際にどのように指示を伝えれば良いのか分からない、といったマネジメント経験の不足も原因の一つです。任せること自体に時間や労力がかかるように感じてしまい、結果として自分で抱え込んでしまいます。

権限移譲がもたらす長期的な価値

「自分でやった方が早い」という短期的な効率を追求する姿勢から脱却するためには、権限移譲がもたらす長期的な価値を理解することが重要です。権限移譲は単なるタスクの割り振りではありません。

1. メンバーの成長促進

メンバーに権限と責任を与えることは、彼らにとって大きな成長機会となります。新たな挑戦を通じてスキルや知識を習得し、自信をつけることができます。

2. チーム全体の能力向上

個々のメンバーが成長することで、チーム全体のスキルレベルと生産性が向上します。特定の個人に依存しない、自律的で強いチームを作ることができます。

3. リーダー自身の時間創出

定型的なタスクや特定のスキルを要するタスクを移譲することで、リーダーはより戦略的な思考や、チーム全体のマネジメント、メンバーの育成といった重要な業務に時間を割くことができるようになります。

4. 信頼関係の構築

タスクを任せ、成功体験を共有し、適切なフィードバックを行うプロセスを通じて、リーダーとメンバー間の信頼関係が深まります。これは、心理的安全性の高いチームを作る上で不可欠です。

「自分でやった方が早い」を克服するための考え方

短期的な「速さ」から長期的な「強さ」へ視点を変えることが、克服の第一歩です。

初めての権限移譲を実践する5つのステップ

具体的なステップを踏むことで、権限移譲へのハードルを下げることができます。

ステップ1:何を任せるかを見極める

まずは、自分が抱えているタスクを棚卸しします。その中から、比較的リスクが低く、メンバーのスキルレベルに合致するもの、あるいは少し背伸びが必要だが成長に繋がりそうなタスクを選びます。定型的な作業や情報収集、簡単なドキュメント作成、特定の調査タスクなどが始めやすいでしょう。IT開発チームであれば、既存コードの軽微な修正、簡単な単体テストの実施、フレームワークの調査などが考えられます。

ステップ2:任せる相手を選ぶ

タスクの内容と、メンバー一人ひとりのスキル、経験、意欲、今後のキャリアパスなどを考慮して人選します。新しいスキルを習得したいという意欲のあるメンバーや、特定の技術に興味を持っているメンバーに任せると、成功する可能性が高まります。

ステップ3:明確な指示と期待を伝える

タスクの内容、目的、期待する成果物のイメージ、品質基準、期日などを具体的に、そして分かりやすく伝えます。なぜこのタスクを彼に任せるのか、タスクが全体の中でどのような位置づけにあるのかといった背景を伝えることで、メンバーはタスクの重要性を理解し、モチベーションを高めることができます。技術的な詳細についても、必要な情報は惜しみなく共有します。

ステップ4:任せきりにしない:適切な進捗確認とサポート

タスクを任せた後も、適度な頻度で進捗を確認します。必要に応じて質問に答えたり、必要な情報を提供したりとサポートを行います。ただし、マイクロマネジメントにならないよう注意が必要です。進捗確認は、メンバーを管理するためではなく、彼らが困っていないか、必要なサポートを提供するためであるという姿勢を示します。IT開発であれば、デイリースクラムでの報告、コードレビューの機会を設けることなどが有効です。

ステップ5:フィードバックと承認

タスク完了後には、必ずフィードバックを行います。良かった点や貢献した点を具体的に褒め、承認することで、メンバーの自信と次への意欲を引き出します。改善点がある場合も、人格を否定するのではなく、タスクや成果物に対して建設的な提案として伝えます。そして、任せたことへの感謝を伝えます。

よくある失敗例とその対策

権限移譲の過程で起こりやすい失敗と、その対策を知っておくことも重要です。

まとめ:権限移譲はリーダー自身の成長プロセス

「自分でやった方が早い」という感覚は、多くの初心者リーダーが経験するものです。しかし、この感覚に囚われず、権限移譲を一歩ずつ進めることは、メンバーの成長、チーム力の向上、そして何よりリーダー自身の成長に不可欠なプロセスです。

短期的な効率ではなく、長期的な視点に立ち、メンバーを信頼し、明確なコミュニケーションを心がけること。そして、小さなタスクから実践し、成功と失敗から学ぶサイクルを回していくことが重要です。

今日から、あなたが「自分でやった方が早い」と感じるタスクの中から、一つだけを選び、チームメンバーに任せてみることから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、チームとあなた自身の未来を変える可能性を秘めています。